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オムニバス「銀のある風景」

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−銀の旅−

「これ、使うか?」

学生の頃、先年に亡くなった父から、黒ずんだ銀製の懐中時計がぶっきらぼうに手渡された。久しぶりに書斎を整理して出てきた物らしい。

「高い物だから、大切にしろよ」

「磨き粉をつけてフェルト布で磨けば光るからな」

父が若い時、社会人になってほどない頃、母と知り合う前に高い金を出して買ったもののはず。幼い記憶では、厳めしい父とスーツのボケットの銀時計は、同じ威厳を保っていた。

さも有り難がってほしい口振りだったが、くすんだ色合いや鄙びたデザインといい、あまり嬉しくなかった記憶がある。おざなりの磨き方では輝きも戻らず、腕時計ほどの軽さもなく、それは使うことなく机にしまわれた。

大学を卒業して大人のオシャレに目覚めた頃、想い出して磨いてみると、その銀時計は嬉しくなるほどの輝きが蘇ってきた。蓄積ある逸品は、ワカゾーのオシャレにも確かな存在感をもたらしてくれた。それ以来スリーピースの左ポケットを彼の位置と決めていた。

「銀の(魅力を見出す)旅」は、その時に始まった。

家内とのデート、彼は恋の進行も計ってくれていた。結婚式の時にもモーニングのポケットに忍ばせた。気持ちの高ぶりをなんとなく抑えられるような、持っているだけで安心できたからだ。新婚旅行にも連れていったし、息子が誕生する病院の待合室ではそれを握りしめていた。思えば青春のかなりの時間を共にした。

しかし、その銀時計も今はもうない。父が亡くなった時、悩んだ末に棺の中に入れた。残念だけどそれでいい。私に銀の価値やすばらしさを教えてくれただけで充分。眠りについた父の傍らにいてほしい。お疲れさま、そしてありがとう。

今、私の左ポケットにあるのは私の人生を彩ってくれた銀製品だ。私の息子が成人するまでの間の、銀を見出す旅の同伴者である。それはやがて形を変え、今度は息子の人生を貌ることだろう。

銀にはそれだけの魅力と価値がある。銀は、これからも時代を超越して光り輝くはずだ。銀との旅が生活に潤いを与えてくれたように。

文責:万里垢璽
Coji Madeno


これは銀製品の販売促進ではなく、銀の良さや価値観をサイト読者と共有して、銀への理解を深めるべくオムニバス形式でまとめたフィクション、読み物です。もっともっと多くの人に銀への理解を深めてもらいたくて、魅力を知ってほしくて、書きました。
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